『文学は、人間を根本から、励ますものでなければならないと思います。』
〜大江健三郎〜
十代後半〜二十代まで文学青年気取っている時分がありました。
小説といえば武田泰淳、深沢七郎、そして中上健次といった土俗風で、生命や血脈のドロドロを直に扱った、湿り気のある重々しい文体のものを好んで読んでいましたっけ。
その中でも大江健三郎は特別でした。
一文で彼のものと判る、クセのある独特の文学手法が大好きで、本人による文学論も興味深く読み込みました。
愛読し始めた頃はすでに名をなしていましたが、ノーベル賞を獲るのはこの人しかいないと想っていたものです。
いちファンとして、どうしてもお目にかかってみたいと、大江氏には珍しいサイン会に神保町の書店まで行ったものです。
目の前まで進み出た際、サインの名前を聞かれ
「智慧の智、の一字です」と答えると、
「ああ、サトシ さんですね」
と穏やかに返してくれました。
(これが「個人的な体験」を書いた男か。。)
若くしてその才能は溢れていた大江氏でしたが、ご自身の息子さんが脳に障がいを持って生まれてからは、作品のモチーフの底にそれは常に深く流れ続けました。
その【才能】と【体験】の総体こそ、私にとっては薫製された妙味となって、より魅了されたように感じます。
懐かしい青春の想い出ですが、この年になった今、ページをめくったらまた違った感慨があるかもしれません。。
ご冥福を心よりお祈り申し上げます🙏
この記事へのコメントはありません。