[致知] 一期一会

致知「人間における運の研究」〜2025年4月号〜

総リード『人間における運の研究』〜感想文的考察〜

運とは、果たして偶然の産物なのだろうか。それとも、心の在り方が呼び寄せる必然なのだろうか。

致知電子版の特集「人間における運の研究」は、将棋界の伝説的棋士・米長邦雄氏と知の巨人・渡部昇一氏による対話を軸に、運という見えざる力の本質に迫っている。
米長氏は50歳にして名人位を獲得するという偉業を成し遂げたが、その背景には、単なる勝負運や才能だけでは語り切れない深い人生哲学がある。

まず特筆すべきは、米長氏の「運は心がけによって導かれる」という信念だ。彼は、幸運の女神は謙虚で笑いを大切にする人に微笑むと言い切る。その反面、「恨み、憎しみ、嫉妬、そねみ、やっかみ」などの感情を抱く人間には運は訪れないと断言する。
この姿勢は、まさに人間学の核心を突いている。人間学とは、知識や技術以前に、人が人としてどう生きるかを問う学問である
。そして米長氏の言葉は、我々が自己とどう向き合うか、他者とどう関わるかという根源的な問いを我々に突きつけてくる。

一方、渡部氏が取り上げる幸田露伴の『努力論』にある「幸福三説」――すなわち「正直」「勤勉」「倹約」――は、運を引き寄せるための倫理的土台として機能している。これらは一見、地味な美徳のように映るかもしれないが、実は人類共通の普遍的価値に根ざしている。
近代社会において、個人主義やスピードが重視される今こそ、これらの「ゆっくりした力」が私たちの生を豊かにし、結果的に運を味方につけることに繋がるのだ。

哲学的に言えば、運とは「偶然と必然の狭間にあるもの」である。古代ギリシャのストア派は「運命(fate)」と「理性(logos)」を分けることなく捉え、たとえ抗えない運命の中でも、どう心を保つかに価値を見出していた。米長氏の言葉にもそれに通ずる精神がある。
「心がけ」が運を変えるという彼の主張は、運命論的な宿命を拒絶し、人間の自由と責任を強調している点で、実存主義にも近い。

人間学の視点では、運とは単なる偶然の幸運ではなく、「人格の結晶」であると言える。生き方、考え方、他者への接し方、そして自分への律し方――それらの積み重ねが「運の良さ」という形で表れるのだ。そう考えると、「運がいい人」とは、運が舞い込んできた人ではなく、日々の姿勢によって運を招き入れる力を持っている人なのだ。

この特集記事を通じて、我々人類が共通の教訓として学ぶべきことがいくつかある。

第一に、謙虚であれ。人は成功の中で最も傲慢になる。そしてその傲慢さが運を遠ざける。

第二に、笑いを忘れるな。笑顔は心の余白をつくり、運を呼び寄せる磁場を生む。

第三に、他人をうらむな。負の感情は自らの運を削ぎ、心の器を狭める。

第四に、地味な美徳を尊べ。正直、勤勉、倹約といった「目立たない努力」は、静かにしかし確実に運を味方につける。

そして最後に、人生の運もまた「自ら作り出す芸術」であるということだ。

未来は誰にも予測できない。しかし、どんな未来が訪れたとしても、それに立ち向かう準備をすることはできる。その準備とはすなわち、心の準備、すなわち「人としてどう生きるか」という問いに誠実に答え続けることである。

運は天からの贈り物ではない。自らの生き様が、天をも動かす。そう信じて歩む者にこそ、幸運の女神は微笑むのである。

 

◉2025年4月号「人間における運の研究」から得た、気づきと教え!

1. 「運」は人格の反映である

 人の運命は、単なる偶然ではなく、その人の姿勢、習慣、思考の積み重ねによって形成される。つまり、運を良くしたければ、まず自分の心を整えることが必要である。

2. 「分かち合う」ことで福は増幅する

 自己の利益を守るだけでなく、それを他者と分かち合い、社会に還元していくことが、結果的に自らの運を豊かにする。現代の利己的傾向に対する、強力なカウンター哲学である。

3. 「逆境こそ、運の試金石」

 苦境においてこそ、人は真価を試される。稲盛和夫氏が語るように、「嘆かず、腐らず、明るく努力する」ことで運命は開かれていく。これはストア哲学の「内的自由」にも共鳴する。

4. 伝統と革新の両立が未来を切り開く

 古きものを敬い、学び、その上に新しい価値を築く。この知恵の循環は、持続可能な文明の基盤であり、人間社会が未来へ進むための必須条件である。

5. 人生は「選び続ける行為」である

 運命に身を任せるのではなく、自らの意志で選び、行動し続けることが、結果として「良き運」を呼び込む。これこそが自由と責任の一致である。

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